charles262510’s blog

主に野球。時々SMAP及びTEAM SHACHI。ごく稀にその他の事。

野球を待ちながら

奪われた日常

 ー投げた、打った、走った、捕った。

 ひとプレー毎にある者は歓喜の声をあげ、またある者はため息を漏らす。ある者は好プレーを噛み締めるように友人と語り合う。またある者は不甲斐ないプレーに対し辛辣な言葉をぶつける。ある者は贔屓のチームの得点に気を良くし、周りの席の見ず知らずの人たちとハイタッチをする。またある者は悔しさを押し殺すかのように近くを通った売り子に、ぼったくり価格のビールを要求する。

 

 いわゆる”ニッポンの野球風景”が、かつてこんなにも遠のいたことがあっただろうか。いつもならこの時期は開幕から一ヶ月が経過し、プロ野球がますます盛り上がってくる時期である。だが、世界がそれを許さない。

 

 いうまでもないが新型コロナウイルスの影響(もはや”影響”なんて言葉は生温いかもしれない)である。恐らくコロナ以降の世界は日常生活に戻ることができるようになるまでに時間がかかることになるだろう。丁度、東日本大震災以降まだ日常の生活に戻れていない方々がまだいるように。

 

 野球界だって例外ではない。現にセンバツは中止になったし、プロ野球も開幕日が何度も延期になった。交流戦の中止も発表された。このまま開幕を迎えられるのだろうか、そんな気持ちになったファンも数多くいることだろう。僕もその一人だ。

 反面、この対応によっては僕はプロ野球を嫌いになってしまうかもしれないなとも思っていた。なぜならNPBにはある”前科”があったからだ。

 

世間の反感を買った東日本大震災の対応

 2011年3月11日14時46分。日本が変わった瞬間である。東日本大震災が起こり東北を中心とする東日本には甚大な被害が出た。

 プロ野球だって例外ではなかった。仙台を本拠地とする楽天は勿論のこと、海沿いに本拠地を置くロッテだって球場の駐車場で液状化現象が起こり、まずそこの修復をしなければいけない状態になっていた。それに、東京電力福島原発の問題もある。計画停電の実施など電力供給不足が深刻になっている中で煌々と照明をつけ野球なんてできるのか、というまっとうな声もあった。そんな状態で(開幕予定日の)3月25日を迎えられる訳がない。パリーグは早々に開幕延期を要求したし、世間的にもこの要求は至極まっとうに受け入れられていた。

 ところが、これに意を唱えたところがある。被害が比較的少なかったセリーグ各球団である。

「たとえお客さんがたくさん来なくても、野球人として責務を果たしたい」(巨人・清武代表)

「これ以上、経済活動を停滞させてはいけない」(阪神・沼沢本部長)

 巨人、広島、阪神、中日などの球団関係者は、そんな言葉をもって通常開幕を訴えた。

引用元:https://number.bunshun.jp/articles/-/98322

(筆者注:肩書きは当時のもの)

  最もらしい理屈ではあるがファンからの反発は凄かった。要するに「今そんなこと言っている場合じゃない」ということだ。実際僕も、震災で亡くなった方が毎日報道されており避難生活を余儀なくされている方、原発事故で明日の生活さえどうなるかわからない方、津波で大切なものを失われた方の報道を毎日のように目にしていたから、この言い分はだいぶ呑気なように思えた。そんな声は現場からも上がり、当時の選手会会長の新井貴浩プロ野球史上二度目のストをチラつかせたことで結局はセパ共に4月12日の開幕で落ち着いたがこれは野球ファンから見ててもNPBの対応の不味さが際立っていた。

 

コロナ禍での対応

 翻って今回のプロ野球の対応はどうだったか。個人的にはNPBも球団も選手も素晴らしかったと思う。

 まずはNPB。いち早く2月26日の政府からの2週間の自粛要請に応え残りのオープン戦を全て無観客とすることを公表し、その後はJリーグ、医師団と提携し開催の道を模索。その後は開幕延期や交流戦の中止も発表した。その都度その都度最善手を打っていたと思う。

 そして球団。各球団コロナが猛威をふるう前から外出禁止令を出しており基本的には野球場と家ないしは宿泊施設の往復だけになるよう措置をとっていた(阪神は除く)。

 そして緊急事態宣言が発令されると各球団自主練への切り替えや完全に球場を封鎖するなどクラスターが発生しないように注意を払っていた。その結果としてプロ野球の現役選手及びスタッフの感染は4名(阪神の3選手+巨人の嘱託の球団職員)に抑えられたのであろう。

 「プロ野球(の感染対策)は皆さんが思っている以上によくやっています」こう語るのはプロ野球の感染対策に関するアドバイスを送っている医師団のうちの一人だ(引用元:Number1002号コラム内「消えた球音」より)。これは身びいきでも何でもなく専門家としての正当な評価なのだろう。

 そして選手。選手会は初の緊急事態宣言が発令された翌日の4月8日にはクラウドファンディングを通じて医療機関等への寄付を募ることを発表。4月24日には巨人の原監督、阿部二軍監督、菅野智之坂本勇人丸佳浩が東京都にそれぞれ一千万円を寄付することを発表。それ以外にも各球団の選手やOBが様々な寄付に動いている。

 また、この時期だからこそファンと交流を深めている。巨人のインスタライブは同時接続は1万人を超えることが当たり前になっているし、ヤクルトもファンクラブキッズ会員とzoomを通じて交流をしている。オリックスもインスタライブを熱心にやっていたりDeNA山崎康晃が選手にインタビューーをしたものを公開しているなど選手、球団のファンサービスは枚挙にいとまがない。

 本当に震災の頃と比べるとNPB、球団、選手が同じ方向を向きつつあると思う。

 

見えた道筋

 今日、2020年5月9日日刊スポーツがプロ野球開幕日に関する報道を出した。

www.nikkansports.com

 それによれば開幕日は6月19日となるらしい。これが現実味を帯びるためには最低でも3週間前(原監督はインタビューで3週間あれば戦える体制ができると言っていた)欲を言えば一ヶ月前からチームの全体練習を開始し、実戦練習までこなせることが理想だろう。

 ーあの(震災)時は一日一日ちょっとでも前進をしていたが、今回はなかなか先が見えない。(「DAZNダイアリートーク 巨人 原辰徳監督の今」より)

原辰徳は言った。しかし、やっと、わずかではあるが、先が見えた。もちろんこれは日本においてコロナウイルスの感染者が減り、医療崩壊の危険性が低くなってきて初めて実現ができる事だし、当然最初はクラスター発生の防止のために無観客で開催となるだろう。でも、いつかはまた我々が球場に行き生で野球を観られる、そんな日が来るはずだ。

ー「でも、まだ時期があるから。(事態が)収束して、ファンとともに戦えるんではないかと、まだ望みは捨てていません。やっぱりファンの人たちとともにまさに『球春(到来)』と。もう春という言葉が使えるかどうかはともかく、やっぱりファンの人たちと開幕を迎えたい。その一心だね」(同じくDAZNダイアリートークより)

 ”ニッポンの野球風景”を心待ちにしているのは何もファンだけじゃないはずだ。そんな、誰もが待ち望む野球を待ちながら、僕は今日も家にいよう。

 

f:id:charles262510:20200509175124j:image