サッカー素人がみた19−20トッテナムホットスパー(終)
第5章 希望
「That's Beautiful」
2020年7月6日の対エヴァートン戦を勝利で飾った試合後、モウリーニョはこう言った。だが、これは決してその試合内容そのものを指したものではない。この発言は前半終了後、主将であるウーゴ・ロリスと孫興民が口論をしていたことを指している。本来なら試合中に選手同士が衝突することは好ましくないはずだ。ではなぜ彼はそれと真逆の形容詞を使ったのだろうか。これを理解するためにはロックダウン後のトッテナムを語ることから始めなければならない。
時を戻そう。トッテナムがCLで敗退をした直後、新型コロナウイルスの猛威が世界中を襲った。この影響で世界中のありとあらゆる活動がストップ。イギリスも例外ではなくロックダウンの措置をとり、これに伴いプレミアリーグもいつ再開できるか、全く目処が立たなくなった。この間、トッテナムはzoomを使いトレーニングを継続。モウリーニョが求めるサッカーを選手たちに落とし込んだ。また。シーズンが中断された事で伴い怪我で今季絶望と言われていたハリー・ケイン、ステーフェン・ベルフワイン、孫興民、ムサ・シソコの復帰が可能となった。
ーそう、モウリーニョが望む「仕切り直し」が実現したのである。ということはもうどのような結果になろうが「言い訳」はできない。とはいえ、この時点でトッテナムは勝ち点的に優勝は不可能。CL圏内の4位ですら奇跡という状況であるのもまた事実。果たして稀代の名将スペシャルワン・モウリーニョはロックダウン後どのようなサッカーを見せてくれるのか。”奇跡”を起こすための戦いが始まった。
再開後初戦となる対マンチェスター・ユナイテッド戦は1−1のドロー。続くウエストハム・ユナイテッド戦も2-0と勝利を収めた。一応は勝ち点を取り、CLへの望みはつないでいた。しかし、僕個人の感想を言えば決してチーム状態は良いとは言えないとは思っていた。なぜなら、ロックダウン前と今とで何が変わっているのかが分からなかったからだ。
そして対シェフィールド・ユナイテッド戦、トッテナムは1−3で敗北。この敗北はCL進出への挑戦が終わりを告げた敗北でもあった。この試合、トッテナムに同情すべき点がなかったとは言えない。0−1でリードをされていた後、ハリー・ケインが決めた同点ゴールはVARによってー疑惑のー取り消しがされた。しかし、そこから途端に相手優位な試合運びになるというのはどうにも観ていてフラストレーションが貯まるものであっった。それはモウリーニョも同感だったようで、試合後にはこんなコメントをしている。*1
あなたのチームのパフォーマンスへの評価は?
試合中に起こることに対処するために、我々はもっともっと精神的に強くならなければならない。マイケル・オリバー(VAR担当審判)の決定後に精神的に打ちのめされてはいけないんだ。
受け入れがたい判定だったのはわかっているし、周りにいた選手たちは何が起きて、何が起きなかったのかを知っている。あのゴールを祝い、ゴールだったと感じている。皆さんが気にしているのはそこだろ。
選手たちが歯がゆい思いをしたのはそうだろうが、残り50分間をもっと強く戦い抜かなければならない。試合の主導権を握り、ボールを保持し、チャレンジしていたにもかかわらず、それが後半のチームに対する私の批判だ。
「貪欲さ」とは言いたくないが、納得がいかない判定が下ったことで、我々はそういったものを失ってしまった。我々は、後半に圧倒的な支配をするほどには精神面に十分な強さを持ち合わせていなかったし、チャンスを作り出すためのシャープさとプレーの強度もなかった。後半の最後には、我々はボールを持っていたが、打開を一変させるほどのチャンスが作れなかった。
結局、トッテナムというチームの弱さはここにあると思う。貪欲さ。是が非でも逆境、理不尽を跳ね除けようとするメンタル。それが第2章でも触れた”勝者のメンタリティ”と言えるのではないだろうか。例えばリヴァプールやマンチェスター・シティが同じような状況で相手優位の試合運びになるだろうか?そんなことはないはずだ。
Amazon prime videoのドキュメンタリー、All or Nothingの予告編*2のミーティング映像ででモウリーニョはこんなことを言っている。「君達は”イイ奴ら”だ。でも、”イイ奴ら”は絶対に勝てない。」当然あくどい手を使ってでも勝てとかそんなMAJORの三船西中やら海堂高校の江頭みたいなことを言っているのではない。要はモウリーニョはイイ奴であるが故にお互いミスがあっても指摘しないというような姿勢を改めて欲しかったのではないのだろうか。予告編であるが故にー早く日本でも流して欲しいーモウリーニョが件の発言をしたのはいつ頃のことなのかは定かではないが、モウリーニョはこのことをずっと訴えているのではないだろうか。
だからこそ、「That's Beautiful」の発言が生まれたのだ。ちなみに、このエヴァートン戦の試合後、別のインタビューではこうも発言をしている。
ちなみに試合後、当事者のロリスも孫興民も特別なわだかまりはないと発言していたがそれはそうであろう。お互いが”勝つ”という方向にベクトルを向けている以上、そこからチームが崩壊するようなことはおそらくはないだろう。
そんなわけで、この試合は、モウリーニョイズムが浸透しつつあることを図らずとも内外に示した19−20シーズンのハイライトの一つともいえる試合となった。
終章 総括
その後トッテナムは残り5試合を3勝2分ー内2勝はレスター、アーセナルから奪ったものだーで終え、EL出場権を獲得してシーズンを終えた。
以上が僕がシーズンを通して観てきた19−20シーズン、トッテナムホットスパーの極々一部である。
オフシーズンのトッテナムはサウザンプトンからMFピエール・エミール・ホイビュアーを、バーンリーからGKジョー・ハートを、ウルヴァーハンプトンワンダーランズからDFマット・ドハーティーを獲得しー2020年9月13日現在ー、戦力に多少の厚みが出た。これでプレミアリーグ制覇を…と行きたいとこだろうが現実的にまだそこは厳しいだろう。まずは今シーズン、CL出場権を獲得し、そして何かしらのカップ戦を制覇するというのが現実的かつ理想的なシーズンなのではないだろうか。ただそこは手練手管、百戦錬磨のモウリーニョである。僕の現実的予想を裏切って、大いに躍進してもらいたい。
最後に、今シーズンの個人的なベストゲームとMVPを発表して締めとさせていただきます。
個人的ベストゲーム
対レスター戦(37節)
理由:これがモウリーニョのサッカーかというのを思い知らされた試合。ボール支配率は29%と低いにも関わらず危ない場面が少なく、3−0と完勝。ELに出場に大きく前進をした一戦となった。
個人的MVP
理由:怪我をしなかった。この一点で称賛されるに値すると思う。よく走るし、決定力もある。トッテナムにきてくれてありがとうな。