charles262510’s blog

主に野球。時々SMAP及びTEAM SHACHI。ごく稀にその他の事。

それは破壊か、革新か。

⒈はじめに

 ”元サヤ”という表現が正しいのだろうか。ヨーロッパスーパーリーグ構想(以下ESL)の話だ。2週間前はあれほどの議論がされていたにも関わらず、今となっては普通にチャンピオンズリーグ(以下CL)も、ヨーロッパリーグ(以下EL)もヨーロッパの国内リーグも行われている…。表向きは。けれど、一度吐いた唾は飲み込めない。ESL構想に参加したクラブの多くのファンー特に国内ファンーは自らが応援しているクラブへの不信の火種が未だ燻っているようにも思える。かくいう僕も、ESL構想で海外サッカーから距離を取ることを決めた人間の1人だ。

 本記事は今回の騒動ーすなわち、ESL構想ーが、ヨーロッパサッカーを”破壊”するものなのかそれとも”革新”するものなのか、というのを自分なりにまとめたものだ。僕は専らプレミアリーグを中心に見ており、他リーグのことは詳しくない。かつ、サッカーを本格的に観るようになって日も浅いのでもちろん長くサッカーを観てきた方にとっては”浅い”と思われる部分もあるかもしれない。そこは”あぁ、こんな意見もあるのね”程度に思っていただければ幸いだ。

 

⒉事実の概要

 噂には聞いていた。どうやらヨーロッパの金満クラブたちが今のCLのフォーマットに不満を抱き、独自のシステムを作ろうとしているらしいと。しかし、一方ではCLを運営しているUEFA及びその他のクラブの反発が予想されるので、実現は難しいだろうという話も耳にはしていた。実際問題として、これ以上試合日程を増やすのは選手たちの身体のことを考えても得策とは言えない。また、問題が指摘されているとは言え、CLだって十分にオカネは稼げるー優勝すれば約100億円以上*1ーのだ。

 だから僕は当初この報道は楽観的に、ある種の夢物語的なものだと思って見ていた。だが、2021年4月19日、風向きが変わる。なんの予兆もなくいきなりESL構想が発表されたのだ*2。参加を表明したのは、プレミアリーグからはアーセナルチェルシーリヴァプールマンチェスター・シティー、マンチェスター・ユナイテッドトッテナムの6クラブ。セリエAからは、ACミランインテルユヴェントスラ・リーガからはアトレティコ・マドリードバルセロナレアル・マドリードの計12クラブ。この12クラブがメインとなり後から3クラブが合流。さらに各国リーグで好成績を収めた5クラブの計20クラブでESLを行うというものだ。

 これに反発をしたのは他ならぬ12クラブのファンだった。当初は強硬的な姿勢を見せ、欧州クラブ協会を脱退したプレミアリーグのクラブ達もファンの抗議を受けわずか2日後の4月21日にはプレミアリーグのリーグの6クラブはESLからの脱退を表明*3した。この後もESLからの離脱を表明するクラブが相次ぎ、事実上ESL構想は頓挫をした。

 

 では、今回のESL構想は何が問題だったのだろう。僕は大きく分けて2つの問題があると思う。1つは彼らがやろうとしていたことは”ヨーロッパ型スポーツ文化の破壊”であった点、そしてもう1つはあまりにもファンの心理を軽視しすぎた点にあると思う。

 

⒊ヨーロッパ型スポーツ文化の破壊

 報道によれば、今回のESL構想のスポンサーはJPモルガンだという。また、ESL構想を主導したと言われているレアル・マドリード会長のフロレンティーノ・ペレス氏はかねてより”アメリカ型”スポーツのようにヨーロッパサッカーをしていきたかったようだ*4

 ではまず、”アメリカ型”スポーツと”ヨーロッパ型”スポーツを比較してみよう。”アメリカ型”のスポーツの大きな特徴の一つに”昇降格がない”という事が挙げられる。確かにアメリカ4大スポーツと呼ばれる野球、ホッケー、バスケ、アメフトにはそれがない。これによって各クラブは例えば降格による減収の不安に苛まれる事なく安定した経営を見込めるー余談だが、アメリカのサッカーリーグは昇降格がない。なんでもアメリカナイズしてしまうその精神には感心させられてしまうー。逆に、ヨーロッパサッカーには昇降格がある。これは降格による減収の恐怖があるが、逆にそこにとどまり続ける事がクラブのブランド力を高めることにつながる。

 アメリカ型もヨーロッパ型もどちらがより優れている、劣っているということはない。お互いそれぞれのやり方でお金を稼げばいいのだ。

 ところが、ESLはヨーロッパ型の文化のところに、一部のアメリカナイズされた考え方の経営者たちが、無理矢理アメリカ型の文化をねじ込もうとしたのだ。

 何の理解も得ようとせず建前だけはキレイゴトを並べ、そして根ざしていた文化を破壊しようとする。時代が時代なら戦争の火種にもなりうる行為だ。この点につき、やはりESL構想は間違っていたと言わざるを得ない。

 そしてもうひとつ。何よりも由々しき問題だと感じたのがファン心理の軽視だ。

 

⒋ファン心理の軽視

 ESLのお題目はESL会長のペレス氏によるとこういうものらしい。

「サッカーは40億人以上のファンがいる唯一の世界的スポーツであり、私たちのような大規模クラブには、そうしたファンの求めに応じる責任がある」

 なるほど、確かに世界中にファンはいるし、サッカーのW杯の盛り上がりは半端じゃない。しかし、本音はどうなのだろう。こういった報道がある。

一部のオーナー達はコミュニティに根付いてスタジアムに足を運ぶ地元サポーターを「レガシー・ファン」と呼んでおり、それよりもスター選手が見たいといわゆる「将来のファン」を優先したい。

スーパーリーグ側が言うには、こうしたら下のチームにももっとお金が回っていく。

*5

 僕が今回のESL報道で一番承服できなかったのは実はここだ。「レガシー」なんてちょっといい言葉風にしてはいるが要するに国内ファン、それも地元ファンに対して「アンタら金にならんもん。別に切ってもええやろ」 といっているのだ。

 例えばイギリスのサッカーリーグは1888年に始まった。日本で大日本帝国憲法が発布されたのは1889年だ。つまり日本がようやく欧米のような国家になりつつある時にはもうすでにサッカリーグは存在していたのだ。そこから数えて130年余、ずっとイギリスにはサッカーが根付いてきた。僕も2回ほど現地でプレミアリーグを観戦した事があるが、彼らにとって、サッカーとは単なる”娯楽”ではなく、”日課”になっているのだと感じた。それを経営陣は”レガシー”で片付けてしまったのだ。そんな傲慢な話があるだろうか。百歩、いや1億歩譲ってその文化を知らない外国人の経営陣は仕方がないとしよう。だが、イングランド人オーナーがそれに乗っかってしまったのは本当に失望したーダニエル・レヴィ、お前のことやぞー。これはあまりに不誠実であり不勉強であったと思う。

 

⒌終わりに

 僕がスポーツを好きなのは、選手たちの素晴らしいプレーに魅了されることもさることながら、それを応援する一人一人の人生と交点が出来る感覚が好きだからだ。ー親の影響で、ー辛い時にこの選手のプレーが励みになったから、ー好きな人が好きって言ってたから。きっかけなんてほんと人それぞれだ。育ってきた環境も、年齢も、性別も、国籍も、人種も違う。そんな人たちが一つのプレーに夢中になって同じ感動を共有できる。その瞬間、人生に交点が出来る。そんなに素晴らしいことは世の中数少ないと思う。だから、スポーツを観るのだ。

 その最たる例がプレミアリーグだと思っていたから、僕はプレミアリーグを観ていた。

 だが今回のESL構想によって萎えてしまった。結局、僕のそんな気持ちは一部経営陣の金儲けの道具にしか過ぎないと感じてしまったからだ。

 

 誤解しないで欲しいのは、僕は何もスポーツによる金儲けを否定しているわけではない。規模が大きくなればなるほど雇用する人数が増えて、たくさんのお金を稼がなくてはならないのは至極当然のことだ。だが、それでも金儲け以上に大切なこともある。ESL構想はそれを見失ってしまったから頓挫したのだ。

 もちろん、なぜ今回のことが起こってしまったのか、起こしてしまったのかを双方の立場から検証する必要はある。だけれども、金儲けしか頭になく、大切なものを蔑ろにしてしまったESL構想は、やっぱり”革新”ではなく”破壊”なのだ。

*1:

チャンピオンズリーグは“お金”もスゴイ 本戦出場するだけで○○億円ゲット?! | サッカーキング

*2:

サッカーで「欧州スーパーリーグ」創設、英強豪含む12クラブが合意 FIFAなどは反対 - BBCニュース

*3:

プレミア“ビッグ6”はESL撤退へ…マンU、リヴァプール、アーセナル、トッテナムも正式表明 | サッカーキング

*4:

破綻したサッカー欧州スーパーリーグ構想の背後にJPモルガンのなぜ | ニュース3面鏡 | ダイヤモンド・オンライン

*5: