JUMP MAN
ということで2019野球シーズンがスタートする。野球シーズンの始まりについては諸説あり有力なのはキャンプインの2/1だとする説と開幕する日だとする説だ。僕は後者を取る。プロ野球の閉幕が日本シリーズ終了である以上、スタートは日本一に向けて戦いを始める開幕だと考えるのが妥当だと思うからだ。この記事の投稿は3/19なのでいよいよ明日、2019年3月20日にシーズンが始まる、という事になる。
ただ、今年の開幕は少し事情が違う。2012年以来実に7年ぶりにMLBが日本で開幕を迎えるのだ。
今回の対戦カードはシアトル・マリナーズ対オークランド・アスレチックスである。そして多くの人はもうご存知だと思うがイチローが日本にやってくるのだ。
本来天邪鬼的性格を有し、こういう時には「何がイチローよ。マリナーズには菊池雄星やゴードンとか他にも良い選手がいっぱいいるわい!」と思ってしまう僕ですら今回ばかりは「イチロー」が観たいと思い連日チケットを入手した。
何故か。それは今回の試合が恐らくー確実にーイチローを日本で観ることができる最後の試合だからである。
鈴木一朗、イチロー、ICHIRO。実績は十分であり将来はアメリカの野球殿堂入りが確実だとも言われる男を生で観たいというのは野球人ならずとも感じる事であろう。現にe+、ローチケ、ぴあで販売されたチケットは爆速で完売した。
ICHIROフィーバーは日に日に高まっている。
ただ、そういう見方だけでもないようだ。要するに多くの人々はイチローを最後に「日本で」観られるというだけでなく、「現役」もこの試合で終えるだろうと考えているのだ。実際、海外メディアもそういう表現をしているし、僕がチケットを取ったのもー本人がどう言おうがー実質現役最後の試合になるだろうという理由であったことも否めない。
もちろん本人は「安易な責任のない意見を裏切りたいと思っている」とイチロー流の言い回しで否定をしているし、50歳まで現役を貫いてほしいとも思っている。
しかし、その一方でイチローが「その時」を見据えているのも事実だろう。
どういうことか。これはここ数年のイチローの発言を振り返ってみるとわかる。
2015年、イチローがマイアミマーリンズと契約を締結した際の会見でファンへのメッセージを求められた際に彼は「これからも応援よろしくお願いします……とは僕は絶対に言いません。応援していただけるような選手であるために自分がやらなければいけない事を続けていくという事をお約束してそれをメッセージとさせていただいてもよろしいでしょうか」と言ったのだ。
これは非常にイチロー「らしい」言い回しだと思ったし、まだまだ現役への意欲を示していた。
さて、イチローが移籍したマーリンズというチームは当時スタントン、イェリッチ、オズーナ、ゴードン、ホセフェルナンデスなど若い選手、それもトッププロスペクトの選手が多くいた。
そしてこの頃からイチローの発言が微妙に変化してくる。
例えば、イチローが日米通算でピートローズの持つ記録を上回る4257安打目を打った際の会見ではこんな事を言っていた。
――チームメートはベンチの中で並んで立って拍手していた。その時の気持ちは?
「(メジャー)16年目なんですけど、アメリカに来て、途中チームメート、同じ仲間であってもしんどかったことはたくさんあったんですね。で、去年このチームに来て、1年一緒にやって、今年メンバーが少し変わったんですけど、チームメートとしては最高のチームメートとハッキリ言える、まぁ“子”たちですよね、もう、年齢差から言えば。本当に感謝してます。彼らには」
この会見を見たとき、僕は衝撃を受けた。あのイチローがチームメートに対して感謝の言葉を述べている…もちろん今までのイチローがチームメートに対してリスペクトを持っていなかったというわけではない。だが、どこかの漫画で「いけ好かないマイペース野郎」と言われたようにどこかチームメートと距離を保つ姿があったのは確かだ。
そして何より、彼はチームメートを「子たち」と形容をしていた。この発言からも、イチローはチームメートに対してただの同僚としてではなく、子どもに注ぐような愛情を持って接していた事が分かるだろう。
もう一つ挙げると、イチローが MLB通算3000本安打を達成した際の会見ではこんな事を言っていた。
――3000安打は通過点。これから何を大事にしながら野球を続けていくのか?
「けっこうしんどかったですからね。特にこの何日かは。その僕の中でまだまだこれから、という気持ちがあったら、それは残念なことだと思うんですよね。まぁこの先は、子供の時のようにとは、そこまではもちろん行くことは出来ない。プロである以上。それは不可能なことですけども、その時の立場というのも影響しますけども。今まぁ4番目の外野手というポジションなので。もう少し感情を無にしてきたところをなるべく嬉しかったらそれなりの感情、悔しかったら悔しい感情を少しだけ見せられるようになったらいいなというふうに思います」
イチローはかつて恐ろしいほど感情を出さなかった。それは感情を出すことによって自らの気持ちの浮き沈みをなくそうと努めていたのだと思うが、それをやめて感情を出そうとしている。
これは僕の目にはもうそろそろ自分の現役生活も終わりが来るからー本人も言っていたようにー最後は子供のように純粋に野球を楽しもう、こういう意識があるのではないだろうか。
彼は昨年契約が決まらなかった時を振り返って、あの時は本当に引退を意識した。僕のプロ野球人生は神戸で始まったからこのまま(自主トレで使用していた)神戸で終わるのかな、と思った。という旨の事を言っていた。それが最終的にマリナーズと契約を結ぶことになり、現役を終えるならシアトルで終わろうと思った、と言っていた。
だからこそ、昨年マリナーズからポストを提示されそれを受諾した際の会見で「僕は野球の求道者でありたい」という発言につながったのだと思う。
「野球の求道者」この台詞は本当に野球が好きで野球を楽しもうーあるいは楽しもうとするー人間以外には出ない台詞だ。
イチローは恐らく「その時」を本格的に意識した時に改めて言うまでもないしかし、当たり前すぎて忘れてしまう「野球が好き」という気持ちに気付いたのではないだろうか。もう一つ加えるならばシアトルに戻ってきた事で、シアトルマリナーズというチームが好きだという事にも気付いたのではないだろうか。(イチローに対して「野球が好き」なんて陳腐な表現が大変無礼なのは分かる。しかしこれ以外の表現が見つからない。)
だからこそ、大好きなシアトルマリナーズでチームに関わりつつ自分も上手くなれる可能性を秘めているあのポストを選んだのだろう。いつ「その時」が来ても悔いのないように。
今回の日本での開幕戦についてイチローは「ギフト」という表現を使った。ギフトー言うまでもなく贈り物の意味である。ただこのギフトが異なるところは、中身をイチロー自身の力で決められると言う事だ。2日間のギフトを終えた後に残るのは「その時」なのかそれともアメリカ行きのチケットなのかー。
いよいよイチローの28年目のシーズンが始まる。